検査遺伝子
以下の遺伝子に関連する最大3種類の遺伝子変異について検査が行われます。
1. NME5:Nm23/NDPキナーゼファミリーに属する遺伝子で、線毛・鞭毛の運動に必要なエネルギー代謝とその調節に関与します。変異が発生すると、ATPの利用や関連タンパク質との相互作用に異常が生じ、線毛運動に障害が現れます。
2. CCDC39:Coiled-coil domain-containing protein 39をコードする遺伝子で、線毛軸索(特にダイニンアーム)の組み立てと安定化に必須の役割を果たします。欠損があると、外側・内側ダイニンアームの形成不全や付着異常が生じ、線毛の振動角度や周期に異常が見られます。
3. STK36:Serine/threonine-protein kinase 36をコードする遺伝子で、Hedgehog(hh)シグナル伝達および線毛ベースのシグナル伝達に関与します。構造完成と運動性の制御に重要な役割を持ち、変異によって線毛の構造・配列異常や脳室内の線毛機能不全(結果として水頭症を引き起こす可能性)が報告されています。
これらの遺伝子変異は、線毛の微細構造(ダイニンアーム、ラジアルスポークなど)や運動機能(振動周波数、移動機構)に欠陥を引き起こし、原発性線毛運動異常症(PCD)の原因となります。
遺伝病の説明
NME5、CCDC39、STK36遺伝子の変異によって引き起こされる犬の原発性線毛運動異常症(Primary Ciliary Dyskinesia, PCD)は、気道上皮細胞をはじめとする体内の様々な部位の線毛または鞭毛の構造および機能に欠陥が生じる遺伝性疾患です。線毛は、気道粘膜の粘液輸送、雄の精子の鞭毛運動、脳室内の脳脊髄液循環などに関与します。
線毛運動に異常があると、気道内の粘液が適切に排出されず、慢性的な呼吸器感染症(鼻炎、気管支炎、肺炎など)を繰り返すようになります。また、一部の個体では不妊、水頭症(Hydrocephalus)、内臓逆位(Situs inversus)などを伴うこともあります。先天的(遺伝的)原因により、成犬になる前から頻繁に呼吸器症状が現れるのが特徴であり、重症例では呼吸困難や臓器障害に進行することもあります。